夏の暑い日、頻繁にトイレに行きたくなる。一見、水分が足りている証拠のように思えるかもしれませんが、実はそれは、体内に水分を保持できていない「隠れ脱水」の危険なサインである可能性があります。この現象を理解する上で、鍵となるのが「血中ナトリウム濃度」です。私たちの体は、体液の濃度(浸透圧)を、常に一定の範囲に保つように、精巧なシステムでコントロールされています。汗をかくと、水分と共にナトリウム(塩分)も失われます。この時、失われたナトリウムを補わずに、水だけを大量に摂取するとどうなるでしょうか。血液中のナトリウム濃度は、急激に低下し、体液は薄まってしまいます。すると、脳にあるセンサー(浸透圧受容体)がこの変化を感知し、「これ以上、体液を薄めては危険だ」と判断します。そして、尿の生成を抑えるホルモンである「抗利尿ホルモン」の分泌をストップさせてしまうのです。抗利尿ホルモンのブレーキが外れると、腎臓は、体液の濃度を元に戻そうとして、どんどん水分を尿として体外へ排出し始めます。これが、水を飲んでいるにもかかわらず、トイレが近くなるメカニズムです。本人は水分を摂っているつもりでも、体は水分を溜め込むことができず、次から次へと排出してしまう。その結果、体内の水分量はどんどん減少し、脱水症状はさらに悪化するという、まさに悪循環に陥ってしまうのです。この状態は「低張性脱水」とも呼ばれ、めまいや頭痛、吐き気といった熱中症の症状を引き起こす原因となります。もし、あなたが夏の日に、水をたくさん飲んでいるのに、なぜか喉の渇きが癒えず、トイレの回数ばかりが増えていると感じたら、それは隠れ脱水のサインかもしれません。単に水を飲むだけでなく、失われた塩分を一緒に補給することが、この危険な状態から脱するための最も重要なポイントとなります。
トイレが近いのは隠れ脱水のサインかも