夏の暑い日に、めまいや頭痛、倦怠感といった熱中症の初期症状と共に、「トイレの回数が増える」という、一見すると矛盾したような現象が起こることがあります。熱中症は、大量の汗をかくことで体内の水分が失われ、脱水状態に陥る病気です。通常、脱水になれば、体は水分を保持しようとして尿の量を減らすため、トイレの回数は減るはずです。それなのに、なぜトイレが近くなるのでしょうか。この不思議な現象の背景には、いくつかの要因が考えられています。まず、最も大きな理由として挙げられるのが、「水分の摂りすぎ」、特に「水だけのがぶ飲み」です。熱中症対策として、こまめな水分補給は非常に重要ですが、汗で失われるのは水分だけではありません。ナトリウム(塩分)などの電解質も一緒に失われています。この状態で、電解質を含まない水だけを大量に飲むと、血液中のナトリウム濃度が急激に薄まってしまいます。すると、体は、血液の濃度を正常に保とうとして、これ以上、体液が薄まるのを防ぐために、余分な水分を尿として排出しようと働きます。これが、水を飲めば飲むほど、かえってトイレが近くなり、結果的に脱水状態を悪化させてしまう「自発的脱水」と呼ばれる危険な状態です。また、暑さによる「自律神経の乱れ」も、頻尿の一因となり得ます。自律神経は、膀胱に尿を溜めたり、排出したりする働きもコントロールしています。夏の過酷な環境によって自律神経のバランスが崩れると、膀胱が過敏になり、まだ十分に尿が溜まっていなくても、強い尿意を感じてしまうことがあるのです。さらに、利尿作用のある飲み物、例えばコーヒーや緑茶、ビールなどを水分補給のつもりで飲んでいる場合も、トイレの回数は増えてしまいます。熱中症の症状と共に頻尿が見られる場合は、こうした体のメカニズムが働いている可能性を考え、水分補給の方法を見直すことが重要です。
熱中症なのにトイレが近い、その理由とは