高齢者は、若者に比べて熱中症のリスクが非常に高いとされていますが、その背景には、「頻尿」や「トイレが近くなることへの懸念」が、水分補給を妨げる一因となっている場合があります。年齢を重ねると、様々な理由でトイレの回数が増える傾向にあります。例えば、膀胱に尿を溜める機能が低下したり、夜間の尿量を抑えるホルモンの分泌が減少したりすることで、日中も夜間も頻尿になりがちです。また、高血圧などの治療薬の中には、利尿作用を持つものもあります。こうした状況から、多くの高齢者は、「水をたくさん飲むと、またトイレに行きたくなるから」と、無意識のうちに水分摂取を控えてしまう傾向があるのです。特に、夜間に何度もトイレに起きるのを嫌って、夕方以降は水分を摂らないようにしているという方は少なくありません。しかし、この水分摂取の抑制こそが、高齢者の熱中症リスクを著しく高める、非常に危険な習慣なのです。高齢者は、もともと体内の水分量が若者よりも少なく、喉の渇きを感じる感覚も鈍くなっています。つまり、脱水状態に陥りやすいにもかかわらず、そのサインに気づきにくいという、二重のリスクを抱えています。そこに、「トイレが近くなるから」という理由で水分を控える行動が加わると、気づかないうちに深刻な脱水状態に陥り、室内でじっとしていても、重篤な熱中症を発症してしまう危険性があります。周囲の家族や介護者は、この高齢者特有の心理とリスクをよく理解し、適切なサポートを行うことが重要です。ただ「水を飲みなさい」と言うだけでなく、なぜ水分が必要なのか、そして、トイレの回数が増えることを心配する必要はないということを、丁寧に説明してあげましょう。時間を決めて、「お茶の時間にしましょう」と声をかけたり、ゼリーや果物など、食事から水分を摂れるような工夫をしたりするのも効果的です。また、塩分や糖分がバランス良く含まれた経口補水液は、少量の摂取でも効率よく体に吸収されるため、頻尿を気にする高齢者には特に適しています。トイレの不安よりも、脱水のリスクの方がはるかに大きいということを共有し、安心できる環境を整えてあげることが、高齢者を熱中症から守るための大切な一歩となります。