朝起きて、最初の一歩を踏み出す時のかかとの激痛。これは、「足底腱膜炎(そくていけんまくえん)」の最も典型的な症状であり、「モーニングペイン(朝の痛み)」と呼ばれています。なぜ、このような特徴的な痛みが起こるのでしょうか。そのメカニズムを理解することは、病気と正しく向き合い、効果的な対処法を見つける上で非常に重要です。私たちの足の裏には、土踏まずのアーチを支える「足底腱膜」という、強靭な膜が張られています。歩いたり、走ったりする際には、この足底腱膜がバネのように伸び縮みすることで、地面からの衝撃を吸収しています。しかし、長時間の立ち仕事や、ランニングなどのスポーツ、あるいは加齢による柔軟性の低下などによって、この足底腱膜には、常に繰り返し、強い張力がかかり続けます。その結果、腱膜とかかとの骨が付着している部分に、目に見えないほどの小さな断裂や、炎症が生じてしまうのです。これが、足底腱膜炎の始まりです。では、なぜ「歩き始め」に特に強く痛むのでしょうか。それは、私たちが眠っている間や、長時間座っている間、足底腱膜は縮んだ状態で、安静を保っています。そして、その間に、炎症によって生じた小さな断裂部分を、体が修復しようとします。ところが、朝起きて急に体重をかけると、この修復しかかっていた、いわば「かさぶた」のようなデリケートな組織が、再び引き伸ばされて、ブチッと断裂してしまうのです。これが、あの激しい痛みの正体です。そして、しばらく歩いているうちに、足底腱膜が少しずつほぐれてくると、痛みは和らいでいきます。しかし、また長時間休んだ後に動き始めると、同じことが繰り返されてしまうのです。足底腱膜炎は、単なる使いすぎだけでなく、扁平足やハイアーチといった足の形、あるいはクッション性の悪い靴なども、大きなリスク因子となります。歩き始めの痛みは、あなたの足の裏が、悲鳴を上げているサインです。そのサインに耳を傾け、適切なケアを始めることが、症状の悪化を防ぐために不可欠です。