熱っぽくて体もだるい、喉も痛い。典型的な風邪の症状に悩まされている最中、あるいは治りかけの頃に、突然、体中に蚊に刺されたような、赤くて盛り上がった発疹が現れ、強いかゆみに襲われる。このような経験はありませんか。風邪という呼吸器の症状と、蕁麻疹(じんましん)という皮膚の症状。一見、関係ないように思えるこの二つの組み合わせは、実は、大人の体調不良において、しばしば見られる現象です。風邪をひくと、なぜ蕁麻疹が出ることがあるのでしょうか。その背景には、風邪の原因であるウイルスや細菌と、私たちの体の「免疫システム」との戦いが深く関わっています。風邪をひくと、体内に侵入したウイルスなどの病原体を排除しようと、免疫システムが活発に働き始めます。しかし、この免疫システムが、過剰に反応してしまったり、正常に機能しなくなったりすると、皮膚の内部にある「マスト細胞」という細胞を、誤って刺激してしまうことがあります。マスト細胞が刺激を受けると、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されます。このヒスタミンが、皮膚の血管を拡張させ、血液中の水分(血漿)を血管の外へ漏れ出させることで、皮膚に赤みと盛り上がり(膨疹)を生み出し、同時に、知覚神経を刺激して、強いかゆみを引き起こすのです。これが、蕁麻疹の正体です。つまり、風邪による蕁麻疹は、病原体そのものが皮膚に症状を起こしているのではなく、病原体と戦う過程で、免疫システムが混乱を起こした結果として現れる、一種の「アレルギー反応」と考えることができます。また、風邪をひいた時の、発熱や体力の消耗、精神的なストレスといった、体全体のコンディションの低下も、免疫のバランスを崩し、蕁麻疹を発症しやすくする一因となります。風邪の症状と共に、あるいはその前後に蕁麻疹が現れたら、それは体が「今、免疫が正常に働いていないよ」と教えてくれている、重要なサインなのです。