突然、声が出なくなった、あるいはひどいかすれ声(嗄声)になってしまった。このような症状で耳鼻咽喉科を受診した際に、最も多く診断される病気が「急性声帯炎(きゅうせいせいたいえん)」です。これは、声を出すための器官である「声帯」に、急性の炎症が起きた状態のことを指します。その原因のほとんどは、風邪の原因となるライノウイルスやアデノウイルスといった、ウイルスへの感染です。風邪をひくと、鼻水や喉の痛みといった上気道の症状が出ますが、その炎症が、さらに奥にある声帯にまで及んでしまうことがあるのです。声帯は、左右一対の、ひだ状の組織です。普段、呼吸をしている時は開いていますが、声を出す時には、左右の声帯がピッタリと閉じて、肺から送られてくる呼気によって細かく振動することで、声の元となる音(原音)を生み出しています。ところが、急性声帯炎になると、ウイルス感染によって声帯の粘膜が充血し、赤く腫れ上がってしまいます。腫れて分厚くなった声帯は、正常に閉じることができなくなり、また、スムーズに振動することもできなくなります。その結果、声がかすれたり、あるいは全く声が出なくなってしまったりするのです。急性声帯炎の症状は、声がれや失声のほかに、喉の痛みや、咳、痰などを伴うことが一般的です。治療の基本、そして最も重要なことは、何よりも「声の安静(沈黙療法)」です。炎症を起こしている声帯を、無理に振動させようとすることは、症状をさらに悪化させ、治りを遅くする原因となります。話さなければならない状況でも、大声を出すのはもちろんのこと、ひそひそ声(囁き声)も、かえって声帯に負担をかけるため、避けるべきです。筆談などを用いて、できる限り声帯を休ませることに専念しましょう。それに加えて、耳鼻咽喉科では、炎症を抑えるための薬(消炎薬)の処方や、喉の乾燥を防ぎ、炎症を和らげるための「ネブライザー治療(薬液の吸入)」などが行われます。通常、適切な安静と治療を行えば、1〜2週間程度で声は回復していきます。風邪をひいて声がおかしくなったら、無理をせず、声帯をしっかりと休ませてあげることが、早期回復への一番の近道です。