去年の夏、私は身をもって、間違った水分補給の怖さを知りました。それは、週末に友人と、炎天下のなかでバーベキューを楽しんでいた時のことです。日差しが強く、汗が滝のように流れるのを感じながらも、私は「熱中症にならないように」と、意識してペットボトルの水を次から次へと飲んでいました。2リットルのボトルが、あっという間に空になるほどです。しかし、しばらくすると、体に異変が起き始めました。頭がズキズキと痛み出し、胃がムカムカして、吐き気を催してきたのです。「おかしいな、こんなに水を飲んでいるのに」。そう思っている間にも、なぜかトイレには30分おきに行きたくなります。そして、出る尿は、まるで水のように無色透明でした。友人からは「顔色が悪いよ、大丈夫か?」と心配されましたが、私は「大丈夫、水分は摂っているから」と強がっていました。しかし、そのうち、立っているのも辛いほどの倦怠感と、めまいに襲われ、その場に座り込んでしまいました。見かねた友人が、近くの救急外来へ連れて行ってくれました。診察室で医師に状況を話すと、「それは、水だけを飲みすぎたことによる、低ナトリウム血症、つまり熱中症の一種ですよ」と告げられました。汗で塩分が大量に失われているのに、水だけを補給したことで、血液が薄まり、体は水分を保持できずに、尿として排出し続けていたのです。そして、体内の電解質バランスが崩れた結果、頭痛や吐き気といった症状が現れたのだと説明されました。私は、点滴で生理食塩水などを補給してもらい、ようやく体調が回復しました。良かれと思ってやっていた水分補給が、実は熱中症を悪化させる原因になっていたとは、まさに目から鱗でした。この経験を通じて、私は、水分補給とは、単に水を飲むことではなく、「失われたものを、正しく補う」ことなのだと学びました。それ以来、夏の外出時には、水だけでなく、必ず塩分タブレットや経口補水液を携帯するようにしています。私のこの失敗談が、皆さんの正しい熱中症対策の一助となれば幸いです。