「うちの子、小児科でヘルパンギーナと診断されたんです。でも、本やネットで調べると、ヘルパンギーナは咳や鼻水はあまり出ないって書いてあるのに、うちの子は咳も鼻水もひどくて…。本当にヘルパンギーナなのでしょうか?」このような疑問や不安を抱く保護者の方は、少なくありません。確かに、ヘルパンギーナの教科書的な典型症状は、突然の高熱と、喉の奥に限局した水疱(小水疱)であり、咳や鼻水といったカタル症状は軽微か、あるいは見られないことが多いとされています。しかし、実際の臨床現場では、ヘルパンギーナと診断されたお子さんが、咳や鼻水の症状を伴っているケースは、決して珍しくありません。なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。考えられる理由は、大きく分けて二つあります。一つ目の理由は、「原因ウイルスの種類の多様性」です。ヘルパンギーナを引き起こすウイルスは、コクサッキーウイルスA群を中心に、非常に多くの型が存在します。そして、ウイルスの型によって、引き起こされる症状の出方には、若干の個人差や幅があると考えられています。ある型のウイルスは、典型的な喉の症状だけを引き起こすかもしれませんが、別の型のウイルスは、喉の症状に加えて、咳や鼻水といった気道症状も引き起こしやすい、といった性質の違いがあるのです。つまり、「ヘルパンギーナ」という一つの病名の中にも、原因ウイルスによるグラデーションが存在する、ということです。二つ目の、そしてより一般的な理由が、「複数のウイルスへの同時感染(混合感染)」です。特に、保育園や幼稚園といった集団生活の場では、夏の間、ヘルパンギーナのウイルスだけでなく、アデノウイルスやRSウイルス、ライノウイルスなど、様々な種類の夏風邪ウイルスが同時に流行しています。そのため、ヘルパンギーナのウイルスに感染すると同時に、咳や鼻水を引き起こす別のウイルスにも感染してしまう、ということが頻繁に起こるのです。この場合、お子さんの体の中では、二つの異なるウイルスが、それぞれの症状を引き起こしている状態になります。したがって、医師が喉の奥にヘルパンギーナに典型的な水疱を確認し、診断を下した場合、たとえ咳や鼻水がひどくても、その診断が間違っているわけではありません。