ヘルパンギーナに伴う咳は、子供にとって非常につらいものです。見ている保護者の方も、「何とかしてこの咳を止めてあげたい」と、咳止め薬の使用を考えるかもしれません。しかし、ヘルパンギーナの咳に対する薬物療法の考え方は、少し慎重になる必要があります。まず、大前提として、ヘルパンギーナはウイルス感染症であり、その咳は、主に喉の奥の強い炎症や水ぶくれによる刺激が原因で起こる「反射性」のものです。気管支の炎症が主体ではないため、一般的な気管支炎などに使われる、気管支を広げたり、痰の切れを良くしたりするタイプの咳止め薬は、あまり効果が期待できないことが多いです。では、中枢性鎮咳薬と呼ばれる、脳の咳中枢に直接作用して咳反射を抑えるタイプの薬はどうでしょうか。確かに、咳を一時的に止める効果はあります。しかし、特に小さな子供の場合、咳は、喉の分泌物や異物を体外に排出しようとする重要な防御反応でもあります。それを強力な薬で無理に止めてしまうと、かえって分泌物が気道に溜まり、症状を悪化させたり、二次的な細菌感染のリスクを高めたりする可能性も指摘されています。そのため、小児科医は、子供の咳に対して、安易に強力な咳止め薬を処方することには、非常に慎重です。実際に医療機関で処方される可能性があるとすれば、アレルギー反応を抑え、気道の過敏性を和らげる効果のある「抗ヒスタミン薬」や、漢方薬などが、補助的に用いられることがあります。しかし、これらも咳を劇的に止めるものではありません。基本的には、ヘルパンギーナの咳に対しては、「特効薬はない」と考え、薬物療法に過度な期待はせず、加湿や水分補給といった、前述のホームケアを徹底することが、最も安全で理にかなった対処法となります。もちろん、咳き込みが激しくて全く眠れない、呼吸が苦しそう、あるいは喘息の持病があるなど、個々の状況によっては、医師の判断で咳を和らげる薬が処方されることもあります。自己判断で市販の咳止め薬を使用するのは絶対に避け、薬の使用については、必ずかかりつけの小児科医とよく相談し、その指示に従うようにしてください。