耳鼻咽喉科や脳神経外科で検査をしても、特に異常が見つからない。それなのに、フワフワとした浮動性のめまいや、なんとなく体が揺れるような感覚が、慢性的に続いている。そんな、原因不明のめまいに悩まされている方は、もしかしたら、その不調の根源が、体ではなく「心」にあるのかもしれません。強い精神的なストレスや、慢性的な不安は、私たちの体のバランスを司る自律神経の働きを乱し、「心因性めまい」と呼ばれる、特有のめまいを引き起こすことがあります。私たちの体の平衡感覚は、耳の三半規管、目からの視覚情報、そして足の裏からの深部感覚という三つの情報が、脳で統合されることで保たれています。自律神経は、これらの情報のやり取りをスムーズに行うための、いわば調整役です。しかし、仕事や人間関係などで過度なストレスがかかり続けたり、うつ病や不安障害といった心の病気を抱えていたりすると、この自律神経のバランスが崩れてしまいます。その結果、脳が平衡感覚の情報をうまく処理できなくなり、実際には体が揺れていないにもかかわらず、「揺れている」という誤った信号を認識してしまうのです。これが心因性めまいのメカニズムの一つと考えられています。心因性めまいの特徴は、ぐるぐる回るような激しい回転性のめまいではなく、「フワフワと雲の上を歩いているよう」「船に揺られているよう」「頭がボーッとして、現実感がない」といった、浮動性の、漠然とした症状であることが多いです。また、特定の場所(人混みや広い場所など)で症状が悪化したり、動悸や息苦しさ、過呼吸といったパニック発作のような症状を伴ったりすることもあります。このような場合、相談すべき診療科は「心療内科」や「精神科」です。もちろん、まずは耳鼻咽喉科や内科で、身体的な病気がないことをきちんと確認することが大前提です。その上で、他に原因が見当たらない場合に、心の問題が背景にある可能性を探っていきます。治療は、抗不安薬や抗うつ薬といった薬物療法に加え、カウンセリングを通じてストレスの原因と向き合ったり、自律神経のバランスを整えるためのリラクゼーション法(自律訓練法など)を行ったりします。心の緊張がほぐれることで、結果として体の不調であるめまいも改善していくケースは、決して少なくありません。
ストレスや不安がめまいを引き起こす?