熱中症の症状と共に、トイレの回数が増える「頻尿」が見られる場合、その原因は水分と塩分のバランスの乱れだけではありません。夏の過酷な環境が引き起こす、「自律神経の乱れ」も、その一因として大きく関わっていることがあります。自律神経は、私たちの意志とは関係なく、心臓の動きや呼吸、体温、消化、そして排尿といった、生命維持に不可欠な機能を24時間体制でコントロールしている、体の司令塔のような存在です。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の二種類があり、これらがシーソーのようにバランスを取り合うことで、私たちの体は正常に機能しています。しかし、夏の時期は、屋外の猛暑と、冷房が効いた室内との激しい温度差に、体が繰り返しさらされます。この急激な温度変化に対応するため、自律神経はフル回転で働き続け、次第に疲弊し、そのバランスを崩してしまうのです。これが、いわゆる夏バテの状態です。そして、この自律神経の乱れは、膀胱の働きにも直接影響を及ぼします。通常、膀胱に尿が溜まっていく間は、副交感神経が働き、膀胱の筋肉(排尿筋)をリラックスさせて、尿を溜めやすい状態にしています。そして、尿が一定量溜まると、その情報が脳に伝わり、交感神経が優位になって、尿意を感じ、排尿に至ります。ところが、自律神経のバランスが乱れると、この精巧なコントロールシステムにエラーが生じます。膀胱が過敏な状態になり、まだ十分に尿が溜まっていないにもかかわらず、脳が「尿意」として誤認識してしまったり、あるいは膀胱の筋肉が勝手に収縮してしまったりすることで、頻繁にトイレに行きたくなるのです。これは、「過活動膀胱」と似たようなメカニズムです。つまり、熱中症の初期段階で感じるめまいや倦怠感といった症状は、体の水分・電解質バランスの異常だけでなく、それをコントロールしている自律神経そのものが悲鳴を上げているサインでもあるのです。この場合、適切な水分・塩分補給に加え、十分な休息をとり、体をリラックスさせて自律神経を整えることが、不快な頻尿症状の改善にも繋がります。
熱中症と頻尿、自律神経の乱れも一因