風邪をひくたびに、決まって蕁麻疹が出てしまう。そんな体質に悩んでいる方もいるかもしれません。なぜ、呼吸器の感染症である風邪が、皮膚のアレルギー症状である蕁麻疹を引き起こすのでしょうか。そのメカニズムは、私たちの体内で繰り広げられる、壮大な「免疫の戦い」と、その際に起こる、ちょっとした「暴走」にあります。私たちの体には、ウイルスや細菌といった外敵(抗原)が侵入してくると、それを異物と認識し、攻撃・排除しようとする「免疫システム」が備わっています。この免疫システムの主役の一つが、「抗体」です。風邪のウイルスが体内に侵入すると、免疫細胞は、そのウイルスを特異的に攻撃するための抗体(IgE抗体など)を作り始めます。そして、この作られた抗体は、皮膚や粘膜に存在する「マスト細胞」という、化学伝達物質の詰まった袋のような細胞の表面に、まるでアンテナのように付着します。次に、同じウイルスが再び体内に侵入してくると、このウイルス(抗原)は、マスト細胞の表面にあるアンテナ(IgE抗体)に、鍵と鍵穴のように、ぴったりと結合します。この結合がスイッチとなり、マスト細胞は、内部に蓄えていた「ヒスタミン」などの化学伝達物質を、一気に細胞の外へ放出するのです。放出されたヒスタミンは、皮膚の毛細血管に作用し、血管を広げて赤みを引き起こし(発赤)、血管の壁の隙間を広げて血液中の水分を漏れ出させ、皮膚の盛り上がり(膨疹)を作ります。同時に、皮膚の知覚神経を刺激して、激しいかゆみを引き起こします。これが、アレルギー性蕁麻疹が起こる基本的な仕組みです。風邪をひいている時は、体全体の免疫システムが、通常よりも過敏な状態になっています。そのため、普段なら何でもないような、食べ物やホコリ、あるいは体温の変化といった、些細な刺激に対しても、免疫が過剰に反応してしまい、マスト細胞を活性化させ、蕁麻疹を引き起こしてしまうことがあるのです。つまり、風邪による蕁麻疹は、体がウイルスと戦っている最中に起こる、免疫系の副産物、あるいは一種の「誤作動」と理解することができるでしょう。
風邪で蕁麻疹、そのアレルギーの仕組み