私は四十代に入るまで、自分の足腰の強さには自信を持っていました。しかし、ある冬の朝、通勤のために駅の階段を上っていた際、右の足の付け根に「ズキッ」という走るような痛みを感じたのがすべての始まりでした。最初は「昨日の運動不足解消のウォーキングがたたったのかな」程度に考え、数日休めば治るだろうと楽観視していました。ところが、一週間が過ぎても違和感は消えず、それどころか椅子から立ち上がるたびに股関節の奥底が重く沈むような鈍痛に変わっていったのです。夜寝返りを打つときにも痛みで目が覚めるようになり、私は次第に「これは普通の疲れではない」という恐怖を感じ始めました。何科に行くべきか迷い、インターネットで検索を繰り返す日々。そこには変形性股関節症や、聞き慣れない寛骨臼形成不全といった言葉が並び、不安だけが雪だるま式に膨らんでいきました。このまま歩けなくなってしまうのではないかという焦燥感に突き動かされ、私は意を決して近所の整形外科を受診することに決めました。病院の待合室では、自分よりもずっと高齢の方々が膝や腰の治療を待っている姿を見て、自分の若さで股関節が悪いと言われることへの羞恥心さえ感じていました。しかし、診察室で医師に症状を伝えると、先生は私の足を様々な方向に動かして可動域をチェックし、痛みの出るポイントを的確に探り当ててくれました。続いて行われたレントゲン撮影では、自分の骨が透けて見えるモニターを前に、医師が詳しく解説をしてくれました。私の場合は、生まれつき股関節の受け皿が少し浅い「臼蓋形成不全」があり、そこに加齢や運動負荷が重なって軟骨に負担がかかり始めている「初期の変形性股関節症」であると判明しました。原因がはっきりしたことで、正体不明の痛みに対する恐怖は消え、代わりに「どう向き合っていくか」という前向きな意欲が湧いてきたのを覚えています。治療としては、まずは痛みを取り除くための消炎鎮痛剤の処方と、理学療法士さんによるリハビリテーションが始まりました。特にお尻周りの筋肉を鍛える運動は、股関節への負担を減らすために驚くほど効果的でした。通院を始めて三ヶ月、あんなに私を苦しめていた階段の痛みは次第に和らぎ、今では正しい歩き方を意識しながら再び散歩を楽しめるまでに回復しています。もし、あの時「ただの疲れだ」と自分を納得させて受診を先延ばしにしていたら、変形はもっと進み、手術が必要になっていたかもしれません。病院へ行くということは、病気を見つけるためだけでなく、自分の体の特性を知り、未来の歩行を守るための準備期間なのだと痛感しました。
歩くたびに響く股関節の違和感を放置せず整形外科へ行った記録