医療の高度化に伴い、先天性心疾患や若年性特発性関節炎などの慢性疾患を抱えながら高校生活を送る若者が増えています。彼らにとって小児科を卒業し、成人内科へ移行するプロセスは、単なる通院先の変更ではなく、人生の舵を自分自身で握り直すための最大の挑戦です。ある十八歳の青年、A君の事例を振り返ってみましょう。A君は幼少期から1型糖尿病を患っており、毎日のインスリン注射と血糖値の管理は、長年、母親の主導で行われてきました。小児科の主治医は、彼が高校に入学した頃から「卒業プロジェクト」を開始しました。それまでは診察室の椅子に親子で並んで座っていましたが、あえて「今日はお母さんは待合室で待っていてください」と伝え、A君と一対一で対話する時間を作ったのです。医師は彼に対し、大学進学後の自炊での栄養計算や、将来の飲酒や就職に関わるリスク管理について、一人の大人として語りかけました。A君は当初、自分一人で決断することに不安を感じていましたが、数ヶ月のトレーニングを経て、自分の血糖データの変動を論理的に説明できるようになりました。高校三年生の秋、主治医は彼に、成人内科への紹介状を手渡しました。そこには単なる検査数値だけでなく、A君がいかにして自分の病気を克服し、どのような将来の夢を持っているかという「人間としての記録」が丁寧に記されていました。成人内科の初診日、A君は一人で受付を済ませ、新しい主治医に対して自分の体調を自身の言葉で伝えました。内科の医師も、彼を「手のかかる患者」としてではなく、高度な自己管理能力を持つ「パートナー」として迎え入れました。この事例が教えてくれるのは、慢性疾患を持つ高校生にとって、小児科に何歳まで通うかという問いの答えは、「自立した管理能力が備わるまで」であるという点です。年齢という強制的な期限で切り捨てるのではなく、患者一人ひとりの準備性を慎重に見極め、内科側がそれを受け入れる準備を整える。この二人三脚ならぬ「三科連携」の努力があったからこそ、A君は病気に支配されることなく、輝かしい大学生としての新生活をスタートさせることができたのです。高校生という多感な時期に、医療者が送る「あなたは一人の人間として立派にやっている」という承認のメッセージは、どんな薬剤よりも強力な生きる力になります。小児科卒業は、一つの終わりのようでいて、実は本人が自分の健康の主役になるための、輝かしい戴冠式なのです。
慢性疾患を抱える若者の小児科卒業と内科への橋渡し事例